みらい21かなる - 社会福祉士 山眞弓

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ベーシック・インカム(BI)の現在
コロナウイルスの感染拡大の中で、世界中の人々の生活不安が大きくなり、食料・住宅・医療を社会的に下支えする事(社会保障)が問題になる時代ではないでしょうか?この時代の中で、イギリス由来のべーシック・インカム構想に注目が集まっているそうです。以下に私なりの考え方を紹介します。

私は50代の頃に公園巡回ホームレス相談事業に係わり、沢山の方々にお会いする相談の中で、それまでの私の福祉制度の知識、常識を疑うような体験に遭遇し、私なりの貧困研究を始めました。今話題のベーシック・インカム(以後BI)について、貧困研究の側から眺めてみたいと思います。

 

 ー匆餝愿な貧困研究
近代的な貧困研究は、産業革命当時の英国、ブースのロンドン調査、ローントリ―(チョコレート会社―キットカットも、経営者)のヨークシャー調査がスタートですが、ここで解釈も定義もばらばらだった貧困について、貧困線(一定の年収額)と言う考え方が提示され、貧困概念は具体化されたのでした。

やがて第二次大戦後の「揺りかごから墓場まで」の社会保障制度なったイギリス社会では、「絶対的貧困」という生物学的な生存が果たせない程(餓死、凍死)の貧困は解決されていても、「その社会の平均的な生活水準、ライフスタイルを営めないが故の剥奪感(心理的問題)」を根拠とする新しい貧困、「相対的貧困」が問題になりました。

「新しい貧困」は不平等問題でもあり、さらに21世紀に向かうグローバル経済の先駆けたフランスで、もう一つの新しい貧困「社会的排除」が、政治的な立場を越えての共通問題となりました。今ではEU(ヨーロッパの25か国が加盟する欧州共同体)の政策課題が、脱「社会的排除」の為の「社会的包摂」となっているのです。

 

厚生経済学的な貧困研究
これらは貧困への社会学的なアプローチですが、厚生経済学の分野では1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センの貧困研究、その開発したセン測度(貧困指標)が画期的でした。
この測度(指標)は各社会の貧困度を比較、貧困政策の効果測定に活用される指標(一種の方程式)ですが、この数式の中にジニ係数(不平等測度)が内包されているのです。一般的には「貧困」と「不平等」は別々の概念であり、貧困は解消すべき問題だが、不平等は、労働インセンティヴにもなる、容認あるいは奨励さるべきとも考えられています。

しかしセン測度は「貧困」と「不平等」は分かちがたく結びついている概念同士である事を数理的に示しており、私自身は貧困とは、貧困線(所得不平等における均等分割線)をもって輪郭を括られた所得不平等問題であり、セン測度の中のジニ係数の均等分割線が、その社会の貧困線と同値である事が、この関係を雄弁に物語っていると考えています。

 

 貧困は個人だけの問題ではない

 

セン測度以降の厚生経済学は、政策評価ができる完備的な測度の開発に向かうのですが、セン自身は厚生(所得)と言う単一情報での貧困アプローチから、生活の中の多様な問題(所得、住宅、栄養、医療、教育等々)での貧困アプローチ、エンタイトルメント(権限)、ケイパビリティ(潜在能力)によるアプローチに移っていきました。
 1990年開発の国連の人間開発指数(所得・平均寿命・教育水準)の成功、EUの社会的排除指標(多軸情報)開発の後、各貧困測定、調査は多軸、多項へと向かい、それらの相互関連性評価、個人と社会の貧困の進行を時間軸を入れて眺める、相互関係をも捉える傾向へ向かっています。

 

そうなると個人ばかりでなく、その人が暮らす社会の側の福祉政策、住宅事情、公的サービスの動向、自然環境等も、貧困度を左右する問題として、これら個人と社会との関係(社会的つながり)の喪失が問題にされて行きました。社会の変化、その経過と貧困の度合いは絡み合って進行する、その状態を眺めるという、貧困の個人責任を超えた貧困測定に向かっているようです。

 


日本社会の「引き籠り」状態にある人々も、新しい貧困「社会的排除概念」と共通性があり、順々に社会的繋がりの回復、包摂や復帰などの社会関係の回復が、生活の豊かさに連動する支援、それを辿るいろいろな手立て、互いの係り合いを産み出す事が、「引き籠り」、社会的包摂、脱貧困の政策として組み立てられるという感じになるのでしょう。
人間の生活は社会関係の網の目の中に置かれている。その中で、支え合う社会性を回復する事を通じて、社会的存在としての人間の幸せ、脱貧困を設計しようとする貧困観。「社会的な包摂」とは表裏一体の、新しい貧困「社会的排除」とも言えるでしょう。

 

ぁ(〇秬度とベーシックインカムの違い

 

ところで今話題のベーシック・インカム(最低所得保障制度・以後BI)の理想形では、国民は全て(女性も子供も)、労働参加していなくても、その存在の故に市民権としての最低所得保障、現金給付が想定されています。財源は、失業手当、基礎年金、児童手当、障害者手当、年金等の現金給付制度を廃止した財源とされ、2017年にフィンランド、カナダで試験的に実施されるなど、BIは戦後の「ゆりかごから墓場まで」の西欧福祉国家の行き詰まり、この打開の政策ではないかとの期待が寄せられています。

 

福祉国家の行き詰まりとは、今の福祉制度、生活保護制度などの利用は「財産関係家族関係稼得能力調査」を通過せねばならず、利用者の側には惨めさや屈辱感が生じ、社会的には「税金のお世話になる国民」と言った厳しい目も指摘され、できればこの制度を使いたくないという思いが国民の中に産まれています。福祉実現のための制度が、利用者には不名誉感が生じている問題、これが福祉制度、福祉国家のジレンマです。
この点でたとえば完全BIまでの過渡的な形態の一つ、フランスの若年層(40歳代まで)向けの生活保護(エレミ)は、所得要件だけで皆が受給をうけ、求職しながら世帯を持ち、フランスは今少子高齢化社会を脱出中です。さらに児童手当は世界的に所得を問わず、社会保障全体改革の扉、所得要件無しの支給です。BIは所得を問わず、国民平等支給なので、お互いさまになります。

 

 

さらにもう一つ大きな問題が、福祉国家とは「法律によって財・サービスの給付を行い、新たな既得権益、既得権益集団を作り出す」との指摘です。この事は、福祉分野に限らず、経済政策、社会インフラ整備関連の行財政(原発誘致関連予算等)にも当てはまる問題であり、「新しい法律による新しい既得権益集団の誕生は、利害関係諸団体間の葛藤を生じ、大衆民主主義的な争いを生じるので、その調整には利得の上乗せによらざるを得ない」との事、福祉国家の財政肥大は資本主義的市場経済と大衆民主主義に依拠して必然的、構造的との指摘です。しかしBIはその財源を巡り、国家財政の精査、無駄を見つけ出すという期待がよせられています。

 

 

ァ.戞璽轡奪インカム構想はイデオロギーフリー

 

このように多様なBIのバリエーションに注目が集まる21世紀、全ての国民女性や子供にも平等に最低生活費を保障するBI構想ですが、もともとBIは自由市場による経済活動、現在の国家システム、行財政を前提にする、イデオロギーフリーの主張と言われ、自由主義者フリードマンも負の所得税(低賃金者の賃金補填)を構想し、アメリカの貧困との戦い(1964/01/08)の中でジョンソン大統領も提起したもの。
またジェンダー論者には女性の自由の為、環境保護論者には自然破壊を伴って進む利益追求の企業活動へのセーブの為、社会主義者には所得の再配分の為、などと全方位から好意的に受け止められている構想です。

 

しかしながらBIへの最も大きな危惧は、この労働を問わない現金給付の制度は怠け者を作らないのか?と言う点です。そこで子供、失業者、低所得者等どの範囲の人へ、どの程度の金額給付か、財源問題を含めて様々なバリエーションが提案されるのでしょう。

 


さらにグローバル経済下の「社会的排除」と言う過酷な貧困からの脱出、AI時代の完全雇用の夢が消えた、失業者が増大する時代の人間の幸せの為には、BI(所得保障)だけで問題は解決せず、病気や貧困に陥った人々を社会に繋ぎ戻す「社会的包摂」の政策、医療・介護・住宅保障が不可欠でしょう。これらとBIの組み合わせ、そして利用者と制度を繋ぐ相談業務(ソーシャルワーク)など、家族職場社会の中で人間関係的な繋がりを支援する仕組みも重要でしょう。その事が貧困研究、脱貧困「社会的包摂」からの大切な示唆と思われます。

 

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そして何よりも、公的な給付を受けるか否かなどの場面で、私達の中には、政府、国の言う事、組織、町会など上の言う事、役所の言う事なら、黙って従う事が礼儀と言う文化があります。上の言う事なら嘘でも犯罪でも忖度して従い、仲良くしましょう(逆らうな!)的、教育勅語的文化に縛られている事が、自分の本音、自分達の幸せのための選択、制度をみんなで使ってゆく途を閉ざすのかもしれません。

 

新しい貧困が蔓延しそうな社会からの脱出、次世代の将来の日本社会では、人間関係の質、社会の文化を変えながらの(金銭+社会サービス)社会保障を、必要に応じて使い、その生き方を認め合う人間関係を育て合う事でしょうか?

 

 

BIの試験的な試みは2017年をピークに後退しています。しかし社会保険料を人生長きに渡って安定的な給料から支払いきれない若い世代は、先進国共通な時代状況となっています。税金から、税を出動して国民の最低生活を保障しようとする制度BI、BIに近いさまざまな制度、多様なBIのバリエーションに注目が集まる21世紀のようです。

 

| 日々雑感 | 14:54 | comments(0) | - |









 
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かなる(canal)は「運河」と言う意味です。以前の目黒川に面した6階の事務所から眺めると、目黒川がちょうど足下を流れているように見えて、まるで運河の上にいるようでした。それでベニスのグランカナールのイメージと重ねて、私達の事務所がいろいろな情報や物資を運び込むよう、21世紀の運河になるようにと名付けたものです。